仕事中のあいさつ兼ラブ・メッセージ
我が君 いかがなさったのですか
わざわざ私の処まで御々(おみ)足を運ばれるなど
お呼びいただければ万難を排してでも参上いたしましたのに
ああ、例の朝議の件ですか
あらためて私の意見をとおっしゃるのですか?
はい 私もあの通りでよろしいかと存じます
ご覧ください これが昨年の稲の収穫量と、治水を行うことで増える収穫の見込みを示した竹簡
ぜひ計画は推し進めるべきと私からも言上いたします
……これは申し訳ありません
怒った顔も愛らしいですが、お叱りもごもっとも
まだ陽も高いというのは重々承知
でも熱心に竹簡を見ているあなたの横顔があまりに美しかったから
蜜桃のような頬に思わず手を伸ばしてしまった
それにお忘れですか あなたにずっと触れていない
いったい何日になるでしょう?
……ええ、よくわかっていますとも
ここのところ私もあなたも互いにひどく多忙だった 逢瀬を持つ間もないほどに
あなたのお顔を見られるのも数えるばかり ふたりきりで話すなど夢のまた夢
だからこそ今、少しだけ……
渇ききってひび割れそうな私に、あなたの甘露を分け与えてくださいませんか?
さあ……
……そんな潤んだ瞳で私を見てくださるとは
あなたも私と同じ気持ちと知ってうれしいですよ
あなたを想うあまり、時に私は臆病になってしまうようだ
貴い御心が本当に私に向けられているのかと、そのぬくもりを確かめずにはいられない
でも我が君、こんな私も許してくださらなければいけませんよ
これもあなたへの愛しさゆえなのですから
おや、私があなたに嘘を言ったことがありましたか?
…………いや、言の葉をいくら重ねるより……
……しっ……黙って……
拒まないで
……いえ、心配はご不要です
王がおられる私の室に、呼ばれずに入ってくる者など誰もおりません
それにたまにはこういう場所でというのも悪くない……でしょう?
変わらず甘いですね あなたの肌は……
愛しています
ほら、あなたの………も、もう…………こんなに……
……っ、何てことだ
あなたを探す声が聞こえる
…………………………あの調子だと、回廊からここまでやってくるのももうじき、ですか
いったい何事が出来(しゅったい)したかは知らないが、無能な輩はこれだから困る
たまには自分たちだけで事態の収拾ができないものか
あの人たちは王がいなければ己の衣の帯も結べないのではありませんか
…………いえ、言い過ぎました
王たるあなたは常に皆から必要とされている
この身に沁みています……
おおいに残念……ではありますが
当然のことですから仕方ない……のでしょうね、我が君………………しかし、まったく…………
髪飾りを直してあげましょう……これでいい
……さびしい目をしてくださるのですね
罪作りな方だ ますます離れがたくなってしまう……
でも、さあ、どうぞもう行かれてください
政(まつりごと)に何か問題が生じたのであれば、すぐに私をお召しくださいますよう
いつでもこの身のすべてはあなたのために
ああ、お待ちください 我が君
…………更待ちの月が星の海に漕ぎ出す頃にこの続きを
駄目、というお答はきけませんよ
その時こそ、あなたに飢(かつ)えた私を満たしてください
代わりにあなたを満たすのは……私
ええ……あなたの望むまま、満ち足りるまでね
これまで離れていた長夜の分もありますから、ずいぶんと時間がかかるかもしれませんが……
約束しましょう
今宵は有明の空に星が消え果つるまであなたと共にいると
では、また後ほど……